“クズ”な男のクズたる所以を知る面白さ「窮鼠はチーズの夢を見る」

(映画「窮鼠はチーズの夢を見る」の感想です。ネタバレ含みますので、観賞後にお読みいただくのがおすすめです)

 

まず、大倉忠義さん演じる大伴という人間の描き方がとても良い。良かった理由として「人としてのだらしなさ、クズっぷり」にここまで説明がつく人物像の描き方があっただろうかレベルの描き方がされているところ、を挙げておきたい。

探偵依頼を受けた今ヶ瀬に不倫の事実を突き付けられた時の態度。

これが、「どうにかならないか…?」からの寿司。

これで「なんとか」しようとする大伴は、明らかに大学時代から今ヶ瀬が自分に気があったのを感じ取っていたからなんじゃないかと、演技から察する。じゃなきゃ、そのあとの唐突なキスシーンにはならないわけで。

大伴は「おい、なんだよ、そんなつもりなかったぜ…」な態度を貫きながらも、内心は「これでなんとかなるなら…」という気持ちは持ち合わせていたんじゃないかなあ。

 

そして、妻との朝食。完璧な部屋に完璧な朝食。この時の夫婦の会話がもう、全然自然じゃない。お互い全然相手までの距離を縮めようともしない。そして、終始夫側は「~してあげる」的で、完全に妻は夫から「何かをほどこされる」関係なのが分かる。唯一妻が自分の意見を言った「ホラー映画」に関して夫は、「ホラー映画?(そんなの観るの?)」的な反応。

夫婦で、これだけ距離感のある(のに終始笑顔な)食卓風景を見せられた頃には、もうこちらも(ハハァーン…ナルホドナ)と、なってくる。

 

 

不倫相手と会った理由も「(相手が)さびしそうだったから」。

不倫の事実を妻に知られたくない理由も「あいつは大事にしたいから」。

今ヶ瀬とキスやセックスにすすむのも「今ヶ瀬が望んできたから」。

 

大伴は自分がだらしない判断をしたときの理由を全てにおいて、「相手のせい」にする男なのだ。

そこを詰められた時の言い返し方も、ややキレくらいの口調であまり整合性のない理屈を繰り出す。

 

極めつけは、自分が不倫をしておきながらも、妻にはバレず、しかも妻から浮気のカミングアウトをされた時に出た「信じてたのに」。この言葉に、あの表情。これは、「根っから」だ。

 

なのに、大伴はモテる。

大学時代も、今も。

 

それは、あの顔とあの見た目、そして何事にも「イエス/ノーをはっきり言わない」ことで醸し出されてしまう、(この人優しい人なんじゃないか)オーラ。そこから生み出されるミステリアスさ。

 

 

これが、顔のよさ(とても良いので強調しておく)と相まって、周りの人を虜にする。

 

そんな周りの人の感情を、当たり前のように受け取って来た人生をここまで送ってきた人なんだろうなあ。大伴さんは。

人からの好意的な感情を受け取り慣れてるが故の、「人からの感情にありがたみのない感じ」は、大伴という人間を“クズ”という輪郭で型どるのに充分すぎた。

 

これは、大伴さんを演じた大倉忠義さんが圧倒的“顔の良さ”を持つ俳優さんであったことで成立する理論だけど、私はそう思ってます。

 

そして、そういう自分に無自覚でありながらも、これまた無自覚に人の喜ぶサプライズができちゃったり、無自覚に「来年も~」とか言えちゃう天然の優しさと魔性も持ち合わせているから手強い。それが大伴さん。

 

人からの好意的な感情を受け取り慣れた大伴が、自分の持つ感情を初めて確かめられた相手が、今ヶ瀬なんだよね。

 

「クズ」という言葉で片付けてしまえば簡単な大伴の言動には理由がある。そして単純に大伴が「ダメな男」というわけではなく、当然魅力もある。その「クズ」な部分さえ愛し受け止めてくれる相手がいることで、自分の感情と向き合う一歩を踏み出せた男の話だと思いました。

 

 

 

 

 

最後の方で今ヶ瀬が大伴に対して「次に付き合うなら、~な女がいいですよ。」って言う場面があるんだけど、これは、

「男である大伴の付き合う相手はあくまで女性」という、世の中的な「普通」の感覚が今ヶ瀬にもある…と考えてもそれは皮肉だし、

「大伴が次に付き合うのがもし男だったら」と考えるくらいなら、女であった方がいい…と考えてのことなのか、

「大伴は自分とは離れられない」とどこかで確信してるからなのか。

 

その辺りを考えながら観るのも楽しかった。

 

 

最後に。

 

この映画、出てくる女性が色々なタイプいたけれど、どの人も「ちゃんと存在してる女」だったのが良かった。ストーリーのために都合良く描かれた「そんなやつおるかい!」的な女がいなかったの、結構良かったなあ。

 

あと、食事のシーンがかなり多いんだけど、どのシーンもなぜかちっとも美味しそうに見えない面白さ。

タイレストランのスタッフの人なんて、あのテーブル担当になったのちょっと気の毒になったヨ…。売上げビール3本だし。